一般診療(保険診療)
Dermatology
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、良くなったり、悪くなったりを繰り返す、かゆみのある湿疹を特徴とする皮膚疾患です。
多くの患者さんは皮膚が乾燥しやすい素因(ドライスキン…皮膚バリア障害)とアトピー素因(アレルギーを起こしやすい体質)をもっています。そこへ様々な刺激やアレルギー反応が加わり、発症すると考えられています。まず、しっかりとした適切な治療をきちんと行いましょう。しばらくの間はお薬を使いながら症状のない状態を維持し安定させます。その後、少しずつお薬を漸減していくことが治療成功の秘訣です。
このような外用療法のことをプロアクティブ療法といい、以前のように「ひどい時だけお薬を使って下さい。良くなったらすぐに塗るのを止めていいですよ」という外用指導から、大きく変革されています。しっかりと外用療法を行うことで、多くのアトピー性皮膚炎の患者様は改善が期待できます。難治であるとお感じの場合には、まずは、今までの治療内容を見直してみましょう。それでも、中には本当に難治なケースもあります。その時には、全身療法を検討してみましょう。
全身療法に使うお薬は高価であるため、手が出ないと感じてしまうかもしれませんが、いくつかの負担軽減の制度があります。お悩みの患者様は、一度、自己負担額の目安をこちらからご確認ください。「症状を改善させ、かゆみや外見にとらわれず、本来のご自身の生活を送れるようになる」ということが治療の目標です。
アトピー性皮膚炎の原因
アトピ一性皮膚炎では、「IL-4」、「IL-13」をはじめとするサイトカインという物質が皮膚の炎症を引き起こし、皮膚のバリア機能低下やかゆみを誘発します。
見た目はきれいでも「炎症」が皮膚の奥底に潜んでいる可能性があります。
炎症がひどくなる前に、きちんと治療することが大切です。
アトピー性皮膚炎の治療目標
アトピー性皮膚炎の治療では、以下のような状態を維持することを目指します。
- 症状がない状態、あるいはあってもH常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態
- 軽い症状はあっても、急に悪化することはなく、悪化してもそれが続かない状態
アトピー性皮膚炎は良くなったり悪くなったりを繰り返しやすい病気ですが、良い状態を維持することが大切です。良い状態を維持して、あなたの目標を達成しましょう。
アトピー性皮膚炎の治療目標の例
原因・治療について
アトピー性皮膚炎の全身療法
塗り薬を使って行う治療を「外用療法」、飲み薬や注射、紫外線を使って行う治療を「全身療法」といいます。
全身療法とは患部(局所)に塗り薬を使って行う治療を「外用療法」ではなく、飲み薬や注射、紫外線など全身に対して行われる治療のことです。
従来の治療でコントロールが不十分な中等症以上のアトピー性皮膚炎の方に対して全身療法の薬剤が続々と増えてきました。
長年アトピー性皮膚炎に使用されてきた自己免疫抑制剤のネオーラル(シクロスポリン)は安全性の確認された免疫抑制剤ですが、定期的な採血、血圧上昇や腎機能障害などの副作用の確認、内服してはいけない内服薬もあります。また、長期に使用することができませんでした。
以下に5種の全身療法をご紹介します。
これらはとても高額な治療ではありますが、負担軽減のための様々な医療費の助成があります。
当院では、デュピクセントのご使用を第一選択と考えております。
安全性、効果の面より、また症状改善後、少しずつ投薬を減らすとしても、症状の再熱がJAK阻害薬よりもマイルドであることからです。
デュピクセントでは効果不十分なケースではミチーガやJAK阻害薬を処方する場合もございます。
<生物学的製剤>
デュピクセント
2018年にデュピクセント(デュピルマブ)が発売されました。2週間ごとの注射と外用薬と併用することで皮疹やかゆみの原因になっているタンパク質の働きを直接抑え、皮膚の炎症反応を抑制する生物学的製剤です。皮疹やかゆみに対して高い効果があります。副作用は少なく長期寛解に使用しやすい薬剤です。
ミチーガ(ネモリズマブ)
2022年にミチーガ(ネモリズマブ)が発売されました。アトピー性皮膚炎の痒みに特化した生物学的製剤です。
<JAK阻害薬>
JAK(ジャック)阻害薬は細胞の内側にあるJAKという酵素に結合して働きを抑えることで、細胞の過剰な活性化を抑え、炎症の原因となる物質(サイトカイン)の働きを抑えるお薬です。生物学的製剤と違って飲み薬ですが、同じように炎症の原因となる物質(サイトカイン)の働きを抑えます。関節リウマチの治療で先行して使用されています。
オルミエント(バリシチニブ)
2020年にアトピー性皮膚炎に使えるようになりました。オルミエントはかゆみを引き起こすJAK-STAT経路を阻害して、皮膚の内部の炎症を抑えることで、皮膚の表面に表れる炎症やかゆみの改善されます。
リンヴォック(ウパダシチニブ)
2021年にアトピー性皮膚炎に使えるようになりました。リンヴォックは12歳以上の小児に使用可能です。かゆみを引き起こすJAK-STAT経路を阻害して、皮膚の内部の炎症を抑えることで、皮膚の表面に表れる炎症やかゆみの改善されます。
サイバインコ(アブロシチニブ)
2021年末にアトピー性皮膚炎に使えるようになりました。サイバインコは12歳以上の小児に使用可能です。1日1回の内服薬で、用量を増減できるメリットがあります。
<プロアクティブ療法について>
アトピー性皮膚炎の患者さまの湿疹病変を、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を用いて比較的短期間に抑え込むことは、以前から可能でした。ただ、外用薬を止めるとすぐに再燃してしまうのが大きな問題でした。
湿疹病変が何度もすぐに再燃すると、「やはり良くならない」「治療しても意味がない」と思われてしまう患者さまもいらっしゃいました。そして治療を中断してしまう方もおられたようです。
そこで、再燃をできるだけ減らすように考えられた治療法がプロアクティブ療法です。
具体的には、湿疹病変が良くなっても、すぐにステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を止めずに、週に1,2回、それらの外用薬を再燃しやすい部位につけていただく方法です。
プロアクティブ療法について
アトピー性皮膚炎の患者さまの湿疹病変を、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を用いて比較的短期間に抑え込むことは、以前から可能でした。ただ、外用薬を止めるとすぐに再燃してしまうのが大きな問題でした。
湿疹病変が何度もすぐに再燃すると、「やはり良くならない」「治療しても意味がない」と思われてしまう患者さまもいらっしゃいました。そして治療を中断してしまう方もおられたようです。
そこで、再燃をできるだけ減らすように考えられた治療法がプロアクティブ療法です。
具体的には、湿疹病変が良くなっても、すぐにステロイド外用薬やタクロリムス外用薬を止めずに、週に1,2回、それらの外用薬を再燃しやすい部位につけていただく方法です。
TARCについて
いつまで毎日外用を続けるのか、いつになったら外用頻度をへらしてもよいのか、
という質問をよく受けます。「よくなった」、と患者様自身が感じた時点でも、皮膚の奥ではまだ炎症がくすぶっていることが多いので、自己判断で外用頻度を減らしてしまうと、皮膚症状が再燃してしまいがちです。
そこで、当院では、中等症~重症の患者様に対しては、プロアクティブ療法と同時に、TARCという項目を測定しております(血液検査)。
TARCとは
TARCとは、かゆみ・湿疹が起こってくるときに皮膚局所で作られる物質です。症状が悪化すると血液中に吸収され、血液検査をすると数値が高くなります。
このTARCが正常値になるまでは、外用療法を毎日続ける必要があります。症状と数値をみながら、適切な治療を行えるように心がけております。
ステロイド外用療法について
ステロイド外用はこわい、という間違った情報、噂が、今もインターネットや噂で世界中に蔓延しています。
そして「ステロイドはできるだけ使わずに治療する」、ということをスローガンとした、アトピービジネスや、適切に治療されないことによる、重症のアトピー性皮膚炎で日常生活に支障をきたされている患者様が多くいらっしゃいます。
その背景には、「いつまで外用療法をつづけたらよいのか」「いつ、外用療法を中止してよいのか」「どれくらいの外用剤を、どの範囲に塗ったらよいのか」という、細かい指導を、医療者側が適切に行ってこなかったことが一つの要因としてあげられます。
まだ炎症が残っていて治療が必要な状態でも、かゆみがとれれば、患者様は「よくなった」と思って外用療法を中断してしまい、すると皮膚症状が再燃してしまう、ということを繰り返すケースが多くみられました。その結果、「外用したら、その時は皮膚症状はよくなるが、やめるとすぐに再燃するし、薬がやめられなくなり、ステロイドは怖い薬だ」 という悪いイメージが広がってしまったということがあります。
ステロイドを適切に使う
ステロイドは、上手に使えば、副作用を最小限にとどめながら、症状をよくしていく強い味方となる薬です。
副作用としては、皮膚萎縮、毛細血管拡張、ニキビ、多毛などが主なものですが、これらは強めのステロイドを長期間外用した場合に起こってくる、皮膚だけに出現する副作用であり、多くは、ステロイド外用量が減れば、元にもどります。また、医師の指導のもと、適切に外用療法を行っていれば、全身的な副作用がでることはありません。
当院では、外用指導を細やかに行いながら、患者様が、自分らしく日常生活を送っていただけるために、最大限のサポートをしていきます。
悪化因子の除去について
<アトピー性皮膚炎と食物アレルギー>
アトピー性皮膚炎を放置すると、やがて皮膚から食物アレルゲンが進入して食物アレルギーを発症し、さらには喘息などのアトピー疾患を併発をしてくることが知られています。
食物アレルギーや喘息の予防のためにもアトピー性皮膚炎の治療は大切です。しかし、不要な食物制限をする必要はありません。
適切な外用療法を行えば食物制限することなく、皮膚炎が改善する場合がほとんどです。しかし、乳児のアトピー性皮膚炎において、稀に、適切な外用治療を行っても皮膚炎のコントロールがつかず、食物アレルゲンの関与が疑われる場合があります。このような場合は、医師による検査を行い、必要であれば適切な制限が必要となります。負荷試験が必要となりました場合は、専門医療機関をご紹介させていただきます。
<環境抗原と接触抗原、汗、ストレス>
乳児期以降のアトピー性皮膚炎では、ダニ、室内埃、ペットの毛、花粉などの環境抗原、シャンプーリンス、香料、金属、外用薬などの接触抗原、汗、ストレスにより悪化することがあります。
血液検査だけでなく、問診、皮疹の推移、などによって総合的に判断します。
しかし、これらの悪化因子除去のみでアトピー性皮膚炎を完治させることは難しく、悪化因子の除去は、外用療法の補助療法としての位置づけとなります。
光線療法(ナローバンドUVB・エキシマライト)
炎症性の皮膚疾患や白斑を治す方法として光線療法を行っております。
当院では、全身照射型のナローバンドUVB(311ナノメーター)と部分照射型のエキシマライト(308ナノメーター)を備えています。
紫外線の一種であるUVBの中で、さらに皮膚の疾患に効果が認められる波長領域の光を患部に照射して治療します。
これまでのステロイド外用薬を使った治療法でも難治である方には光線治療治療の併用をおすすめしています。
症状改善に伴って外用薬の強度を弱めたり来院頻度を減らすこともできます。
『汗』対策 ー考え方と方法ー
アトピー性皮膚炎において汗が増悪因子となることは広く知られており、すべての年代に共通する主要な増悪因子とされています。
一方で、アトピー性皮膚炎では発汗障害をきたすことも知られており、これによる皮膚の乾燥や皮膚温上昇、易感染性が症状悪化につながるとされています。
汗は皮膚の表面で体温調節、生体防御、保湿などの皮膚の恒常性に大きく貢献しているため、適切に発汗できている状態はとてもよいとされており、アトピー性皮膚炎の患者様に発汗を促すことでアトピー性皮膚炎が改善した例の報告もあり、「適切に汗をかける」ことはアトピー性皮膚炎患者様にとっては大切です1)2)。43-45℃の温水で10分足浴する方法や、ヘパリン類似物質含有クリーム3FTU外用といった発汗を促す治療を推奨する意見もあります。3)
しかし、汗には皮膚表面に付着した様々な抗原や環境因子が混入しており、それらによる刺激や即時型アレルギーがかゆみにかかわっているとの見方があり、この反応は「汗アレルギー」と呼ばれています。同定された汗中外来抗原としてMalassezia globosaに由来するMGL_1304があり、これが自己汗の皮内注射により即時型アレルギー反応をきたす原因抗原の一つであることもわかっています。4)
また、汗腺のwater barrieにかかわるタイトジャンクションを構築している分子であるclaudin-3が、アトピー性皮膚炎の患者様の皮膚では発現が低下しており、これに伴い汗が組織中に漏出している可能性も示されています。5)
その結果、抗原暴露された組織中の肥満細胞がヒスタミンの遊離を起こすと考えられ、これがアトピー性皮膚炎の患者様の発汗時のかゆみの一環であることが推測されています。
発汗後、時間が経つと抗原の感作をうけやすくなったり、また、余剰な汗が皮膚表面に放置された場合、汗孔の閉塞とともに汗疹が形成され、汗疹出現部はその後数週間にわたり無汗になることや6)、アトピー性皮膚炎の患者様においても皮疹部の汗孔の閉塞像と表皮汗管内のムコ多糖の沈着が報告されています7)。
以上より、適切に発汗できている状態はメリットが大きいため、発汗をさけることは必要ないと考えられます。しかし、アトピー性皮膚炎の皮膚炎がある状態で汗をかくと刺激によりかゆみが誘発されたり、バリア破綻により抗原に感作されやすくなるため、適切な治療で皮膚炎を常に良い状態に保てるように維持することがとても大切です。また、汗をかきっぱなしにしていえると、汗の防御能が失われ、乏汗の原因にもなるため、発汗早期のメリットを維持するためには、古い汗、余剰な汗は落としましょう。汗を落とすことは汗に含まれる抗原を除去すること、また皮膚温上昇によるかゆみを抑えることにつながります。
具体的には
・シャワー浴で洗い流す8)9)
・流水で洗浄する
・おしぼりで吸い取る
・汗で濡れた衣類を着替える
といった対策を講じるとよいでしょう。
引用文献
1)室田浩之, 進藤翔子, 高橋彩, 他. 皮膚病診療. 2017;39:877-83.
2)Kaneko S, Murota H, Murata S, et al. Biomed Res Int. 2017;2017:8746745.
3)塩原哲夫, 水川良子. 小児科. 2019;60:183-90.
4)Hiragun T, Ishii K,Hiragun M, et al. J Allergy Clin Immunol.2013:132:608-15.e4.
5)Yamagawa K, Murota H, Tamura A, et al. J Invest Dermatol. 2018;138:1279-87.
6)Sulzberger MB, Harris DR. Arch Dermatol. 1972;105:845-50.
7)Haque MS, Hailu T, Pritchett E, et al. JAMA Dermatol.2013;149:436-8.
8)亀好良一, 田中稔彦, 望月 満, 他. アレルギー. 2008:57:130-7.
9)Murota H, Takahashi A, Nishioka M, et al. Eur J Dermatol. 2010;20:410-1.
この記事の監修者
木嶋 晶子(きじまあきこ)
咲愛会 きじま皮フ科クリニック 理事長・院長
医師・医学博士 日本皮膚科学会専門医 日本アレルギー学会専門医
神戸大学医学部医学科卒業
皮膚科、アレルギー科、 美容皮膚科を中心に、一人ひとりの状態を考えて、オーダーメイド皮膚医療を行うことを心がけています。
一人ひとりが輝けるよう、 皮膚のお悩みをサポートしていきたいと考えています。
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療は3つで構成されます。
1.皮膚バリア障害を改善させること
保湿治療を行います。また、皮膚バリア障害を起こしそうな生活環境の改善も指導します。
2.皮膚バリア障害で起こったアレルギー反応を抑える
すでに皮膚に進入したアレルゲンによるアレルギー反応を抑えることは、保湿治療ではできません。これには、抗炎症外用薬(ステロイド、タクロリムス)を使用して新たな感作を防ぎ、アトピー性皮膚炎の発症や増悪を予防する必要があります。
その抗炎症外用薬のもっとも安全で効率的な使用方法として当院ではプロアクティブ療法を行っております。
3.悪化因子の除去
悪化因子の除去は、外用療法の補助療法としての位置づけとなります。
アトピー性皮膚炎の治療の流れ
それでも難治である場合には、光線療法(中波長紫外線:ナローバンドUVBもしくはエキシマライト)を用いることもあります。